ホーム > 資料室 > 歯っぴいトーク2 溝口紀子さんに聞く


溝 口 紀 子さんプロフィール
みぞぐち・のりこ

1971年7月23日生まれ。静岡県磐田郡福田町出身。
福田中学〜静岡県立浜松西高校〜埼玉大学〜静岡県立大学短期大学部静岡校助手。
バルセロナ五輪女子柔道52s級銀メダリスト。アトランタ五輪女子柔道56Kg級日本代表。
静岡市在住。
平成12年5月より10ヶ月間のフランス研修中。

 今回のはっぴいトークは女子柔道のオリンピックメダリストの溝口紀子さんにスポーツ・健康・歯科とのかかわりについてお話しをお伺いしました。聞き手は浜松市歯科医師会の金原尚子です。

 柔道は、小学校4年生から始められたという事ですが、どういうきっかけからでしょうか。

溝口さん きっかけというと、友達に誘われて・・というところでしょうか。
もともと地元の福田町は、柔道がとても強く熱心に取り組んでいたということも恵まれていたと思います。

 始めてすぐに柔道のおもしろさ、魅力に取り付かれてしまったのですか?

 皆さんご存じのように、普通柔道は“受け身”を覚えるところからやるのですが、私は、小学校4年生でもう身長150cm,体重は50kg位あったので、指導してくださった先生が「これはもう早く教えたい」と、“受け身”より先に初日に“乱取り”をやって、鎖骨を骨折してしまったのです。普通だとそこで嫌になってやめてしまいそうなんですが、怪我が治って1カ月後に練習場に行ったら、一緒に始めた友達がかなり上達していてショックをうけたんですね。「このままでは悔しいな」と思って頑張って練習していくうちに、技さえ覚えれば、男の子にも勝てるようになったんです。体力ではかなわない相手をバンバン投げ飛ばして、柔道だったら勝てる、というのがおもしろくて、あれよあれよという間に、小学校5年ではもうチャンピオンクラスに入って…そんな感じでした。

 浜松西高時代は福田町から浜松まで通っていらしたんですか?それとも一人暮らしを?

 最初下宿したんですけど、途中から実家から通うようになりました。

 やはり、ホームシックですか?

 ホームシックの淋しさというよりも、学校での勉強や柔道はとても大変でしたし、家に帰っても下宿生活は、家事一切をひとりで全部やらなければいけない、ということで、精神的にも肉体的にもかなりの負担がありました。その上、減量という大きな課題がありましたから、「とても食事管理までひとりでやるのは無理だ」という事で、実家から通うようになりました。

 減量というのは、実際どういうやりかたをしたのですか?

 最初中高生の頃は、減量の仕方がわからなくて、ただ食べる量を減らすだけでした。栄養指導とかしてくださる方もいなかったので、自分で勝手にやっていたんですよ。当時練習しているとき、よくめまいがしていました。めまいがするのは当たり前だと思っていたんですよ。でも、これって貧血が原因だったんですね。免疫力とかもかなり落ちていたみたいです。風邪とか引きやすくなっていましたしね。
ある日、アメリカ遠征に行った時に、試合の途中で倒れてしまったんです。耳からばい菌が入ったらしいのですが、血液検査したら「鉄分が枯渇」って言われました。もう全然ない。
「こんな状態でスポーツやっているのか!」と怒られました。それからは、母親も全面的に援助、協力してくれて、栄養管理をしていきました。昼食なんかも、カロリー計算をきっちりとした栄養バランスの取れた母の手作り弁当をしっかり食べました。今までの食べないだけの減量とは大違いで、確実に柔道の内容が変わってきました。だんだんと自分のスタイルの減量方法が確立していき、それと同時に全日本でも勝てるようになって、日本チャンピオンになれたんです。

 自分自身で体調の管理ができる様になってきたおかげですか?

 ハイ。自己管理ができないチャンピオンはだめですね。いませんね。
    
 健康管理という面では、食事をバランスよくとること、特に朝食の大切さについていわれていますが、朝食はきちっと食べるほうですか?

 はい。選手のときは必ず食べていましたね。一日の始まりですから。でも今は、不摂生ではずかしいです。もともと低血圧気味で朝に弱いので、朝食抜きのことが多くなって体調を崩して、今は何かしら朝お腹に入れるようにしています。

 朝の歯ブラシとかはどうですか?

 あっ、でも朝出かける前に、食べても食べなくても歯磨きは必ずします。ブラッシングには気をつけていて、歯ブラシもいろんな種類を試したりして、ハミガキはもちろんフッ素入りです。
 
 使っているのはハブラシだけですか?歯間ブラシとかフロスというのは、ご存知ですか?

 フロスは使っていますよ。今も持っていますけど、ワックスのミント入りが大好きでこだわっています。

 ブラッシング指導は、歯医者さんで受けていますか?

 はい、受けています。今でも受けてます。(笑い)
急ぐとだめなんですよね。急いじゃって「奥歯当たってないよ」 とか言われちゃって・・・。

 かかりつけの歯医者さんがいらっしゃるんですか?

 ええ、大学時代に虫歯はひどいし、顎は曲がってくるしで・・・、その時直してもらった歯医者さんに今でもお世話になっています。

 どなたかの紹介で?

 いえ、なんとなく通りがかったときに「ココなんか良さそう・・」みたいな直感で行ったら、ばっちりでした。そういう勘は、けっこう鋭いんですよ。たまたまそこの先生が、噛みあわせとかをとても敏感にやっていた方だったので、すごく助かりました。

 噛み合わせを調整して、具体的にどんなところが変わりましたか?

 バランスがよくなったというのは、すごくいえますね。それから、噛みあわせの調整をした日はすごく眠気があって、その日は爆睡します。すごーくよく眠れるんです。
私自身が、特に噛みあわせに敏感なのかもしれませんけど・・・、歯は本当に大事ですよ。整形外科とか、足の怪我よりも歯に対しては人一倍気を使っていましたし、怪我とか無かったですけど、むしろ歯のことをちゃんとしていたから怪我も無かったんだと思います。

 競技用にマウスピースを使っていらっしゃるそうですが、柔道の場合ボクシングとかと違って、歯がかけたりということはあまり無いと思いますが、柔道での使用者は多いんでしょうか?

 歯が欠ける、というのはあまり聞きませんが、前に八重歯にぶつかって貫通しちゃった人がいましたよ。実際に入れている人は、少ないですね。良さがまだ知られていないってこともありますし、マウスピースいれて気持ちが集中しない選手もいるかもしれないですけどね。

 マウスピースの効用というと、具体的には・・?

 柔道って投げ技とかで、投げられるでしょ?初めての人とか、久しぶりに練習するときって、投げられると“星が見える”んですよ。でもね、マウスピースしていると、それが絶対無い!!でもみんなは、練習をずっとしているから“星がでなくなる”んです。もう麻痺しちゃうからかな?明らかに脳の疲労とかが違うと思うんですよ。受身というのは、いろんな集中する刺激を和らげて受け止める、保護するためのものなんですが、ある意味では“マウスピースが、受身のように脳に与える負担を受け止めてくれる”のかもしれませんね。

 日本で使っている人は少ないんでしょうね、海外ではどうですか?

 日本では1%くらいですね。世界レベルでは、みんなつけてますよ。黒いのですけど。やっぱり透明なのがいいですよ。「私のが一番だなー」なんて・・・。
海外のことは、よくわかりませんが日本ではやっぱりコストのことがあるから・・・。

 “競技にプラスになる”ということが、もっとわかれば普及していきますよね。 
それには、スポーツ選手の競技の事、全身のことがわかっている“スポーツ歯科”の分野がもっと体系化していくべきでしょうね。

 “スポーツ整形”があるのに、どうして“スポーツ歯科”がないんでしょうね。
一時期“しっかり噛めると力が出る”と注目されましたが、あんまり差は無いみたいですね。
“むしろ、噛むというよりも、噛みあわせが大事”だと思います。私はそこに行き着きますね。マウスピースを入れて力を踏ん張るというのじゃなくて、噛み合せが良くて、マウスピースを入れるというのがベストなんですよ。噛み合せが良くないと、まず絶対ダメですね。

 現在は、静岡県立短大の社会福祉科で教鞭をとられているということですが?

 社会福祉学科で、看護婦と歯科衛生士,社会福祉士,介護士をめざす学生たちの、体育実技,全部アシスタントで引き受けています。あとは、専門の方では高齢者のリクリエーション指導、運動の仕方とか,幼児体育の運動の仕方とか…

 直接子供たちやお年よりと関わっていらっしゃるんですか?

 今は、私の研究の中の障害者の静岡県スポーツ障害者協会で理事をやらせてもらっていて、そちらで平成15年(2003年)に静岡で国体が開催されるんですが、オリンピックのときに行われるパラリンピックのようなものが、国体の後に障害者の大会があって、その強化の方を今担当していて全部そっちの強化を含めて障害者の柔道を教えています。

 障害者の指導というのは、いろいろ難しいことが多いと思いますが、どういった事に注意して指導していらっしゃいますか?健常者の方に教える事との何か違いというのは…?

 特にないです。特にないようにしています。障害に対して変に気を使い過ぎるのは、かえってお互いの壁を作ってしまう気がします。健常者と障害者とを区別せず、“障害”の部分を“そこに怪我をした人”ととらえて、「怪我した状態で柔道をする人をどんなふうに指導をするか」考えるんです。「足を怪我していたら?」「手を怪我していたら?」「自分がもし目が見えなかったら?」どういう戦い方をするか,どういう練習をするかを考えてアドバイスするので、「目が見えないのでこういう事はできません」「足が悪いからこれはできません」で 終わりがちなのをもうちょっと飛び越えて「こうすれば、やれるんじゃない!」というふうに、少しづつチャレンジする様な形で指導します。

 一般の選手の指導もなさっていますよね。
現役選手時代と比べて、指導者としての競技生活というのは、かなり違いはありますか?

 現役を引退する時っていうのは、身体がボロボロになってやめる場合と、心・精神面でボロボロになってやめる場合とがあると思うんですが、私の場合、精神的に、試合に対して緊張感が持続しなくなってやめたので、少し指導者として気持ちを切り替えれるまで、時間がかかりましたね。選手としての自分のレベル“なんでもできることが当たり前”という考えが基準にあって、こ〜う、上から見る目線があったんですね。でも“自分だって最初は何も出来なかったんだ”って気づいたら楽になりました。選手と一緒に自分自身が、「選手のときの気持ちに戻していって一緒に積み重ねていかなきゃだめなんだな」「“冷静な指導者としての自分”と、“その子(選手)の中にはいっている自分”の両方を持っていないとだめなんだ」ということがわかってきました。

 “選手の気持ち”というと、女子選手にとって女子の指導者というのは、最良の理解者になるんじゃないですか?体調のこととか、男の先生にはわかりにくいことっていろいろありますよね。

 そうですね、そこの部分“どこまで頑張れるのか”“どこが危ないのか”ということを直接聞き出すことができますし、精神面でも、男子には無い“指導者には云えない心理状況”というのも聞けますから、同性ならではの利点ですかね。

 やっぱり、男子と女子っていうのは違いがあるんですね。

 そうですね。たとえば、男子はやはり立ち技が得意で、女子は寝技のほうが得意なんです。私も大学で男子に負けなかったですからね。寝技では・・。瞬発力と持久力の違いかな?ぎゅっとした瞬間の力と、粘り強さ、そういう性格的特長もありますからね。指導者としても男女の違いというか、差っていうのもあるんですよ。何かわかりますか?

 う〜ん・・・?!・・・?

 女子の先生には“母性”が、あるんです。男性の先生の場合、父親的な“後姿で学ばせる”ところがあると思いますが、女性の場合、“見守る温かさ”というか、こう包み込むフォローするやさしさっていうのかな・・・。

 今、女性の指導者というのは、増えてきているんですか?

 そうですね。私の世代ぐらいかその前の“山口香さん”の世代から徐々に増えてきています。 でも、私たちはみんな男の先生しか見ていなくて、知らないから自分が、今の母親の年代になったとき、どうやって指導していけばいいかわからないんですよ。女性の先輩として、例えば母親という立場、つまり妊娠、出産を経験して子育てをして・・というような女性としての見本もしなければならないし、きっとそれが選手との信頼関係にもつながってゆきますし、大事なんだと思います。

 これからの目標は、世界に通用する選手を育てる、っていうことになりますか?

 ハイ!オリンピック選手出したいですね。是非、地元から・・。
都内とか関東などの大きな柔道場があって、コーチやサポートチームがついて、システムがしっかりした環境を選択する事はできたんですが、それの疑問を持っていたし、「何かそれだけでいいのか・・」という気持ちもあって・・・。
 やっぱり本当に帰って、自分の地元からオリンピックに行く選手を出すのは難しいけれども、それにチャレンジしていきたい、それは私にしか出来ないことだと思ったんです。

 楽しみですね。

 もうちょっと待っててくださいね。
 今、修行中の身なので・・・。ある意味、柔道では不毛地帯ともいえる静岡がイチから始めて、女子も男子も少しづつ強くなっていますし、国体に向けてある意味評価もでてきます。いろいろな先生のお蔭もあって、段々風も向いてきていると思います。私一人の力じゃとてもじゃないけど出来ないので、ある意味、口は達者だから口で盛り上げたり、この元気娘がいるだけでも、中に風がふくんじゃないかなと思って・・、「やったろう!」という気持ちが大事だと思うんで・・・。

 そうですね、私も溝口さんとお話しててなんかこうー、エネルギーを感じますよ。

 そうですか?なんかうれしいなあ!
私、地元が好きなんで、地元が盛り上がるとうれしいし、是非作りたい・・というかめざしたい。まず見つけること、人ですよね。原石があるんですよね。やっぱそれをみつける。キザですけれど、自分自身も成長しないとそういう選手には会えないと思うし、そういう見極められるものを身につけないとダメだと思うので、もっともっといろんなところからいろんな勉強をして、普通の人よりも遠回りするかもしれないけれど、指導者として大きくなりたいですね。

 いつまでも、チャレンジ精神を忘れない溝口さんのエネルギーをもらって私も元気が出てきました。今日は、長時間に渡りありがとうございました。気をつけてフランス留学いってきてくださいね。

 こちらこそ、ありがとうございました。

インタビューを終えて

浜松市歯科医師会 金原尚子(歯科医師)

「柔道は孤独なスポーツだけれど、自分を表現できる。たくさんの観客の声援をうけて試合ができるオリンピックは、自分を表現する最高の場所」そう言って笑った溝口さん、明るく元気にお話ししてくださって本当にアッという間にインタビューの時間が経ってしまいました。紙面の都合上割愛させていただいた沢山のおしゃべりは、私のとっておきの宝物になりました。女子柔道界の発展と溝口さんの今後の活躍に、期待大です。

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